コラム

レストレスレッグス症候群の初めての患者さん/印象に残る患者さん
その10: 深夜に廊下をふらつく脊髄小脳変性症の患者さん
野村 哲志 鳥取大学医学部附属病院 脳神経内科
イヤーノートで知った「レストレスレッグス症候群」
「レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)」という病名を初めて知ったのは国家試験対策のイヤーノートでした。確か神経疾患のセクションで「ナルコレプシー」の次に載っていたのですが、「変わった名前の病気だな」と印象に残った記憶があります。最近、本当に国家試験に出題されたそうですが、私の時はそれきりで、しばらく「レストレスレッグス症候群」とは縁が切れていました。

ちょっと変わった患者さんが入院
ある日、脊髄小脳変性症のちょっと変わった患者Aさん(40歳代の男性)が転院されてきました。経頭蓋磁気刺激療法を受けるためです。脊髄小脳変性症は特定疾患に指定されている難病で、現在でも根本的な原因は分かっていません。進行はゆっくりですが、少しずつ身体の運動機能が失われていくので、将来を悲観してひどく落ち込んでしまう患者さんも珍しくない病気です。

ところがAさんは飄々とした様子で「いやぁ、先生、だんだん足元がふらついてきて困っとるんです。磁気刺激、よろしくお頼みします、はははは」と、本当に困っているのかどうだか分からないくらい、あっけらかんとしていました。確かに脊髄小脳変性症の患者さんではつかみどころのない性格の方が少なくないのですが、Aさんは中でも際立っていました。

深夜に廊下をふらつく脊髄小脳変性症の患者さん
Aさんにはもう1つ変わったところがあって、昼間寝て夜起きているのです。しかも足元がふらつくというのに、夜になると病院内を歩き回っていました。私が当直で夜間の見回りをしている時も、出くわすのは決まって廊下です。
「こんな時間にどうしたんですか?」と聞いてみても
「夜眠れんので、ちょっと歩いているんですよ。それで朝になったら寝るんです、ははははは」といつもの調子。

特に他の患者さんの迷惑になるわけではないので無理に止めることはしませんでしたが、認知症でもないのに毎晩ふらふらするというのは珍しいケースです。そのうち看護婦さんからも「なんだかちょっと気味が悪い」という評判が立ち始めて、主治医の私からAさんにあらためてたずねてみました。すると
「夜になるといても立ってもおられんのです。それで歩き回っとるんですが…。脚がむずむずする感じがして、何だか変ですよね。困ったもんです、ははははは」という返答でした。

 「“脚がむずむずしてくる”というのはどこかで聞き覚えがあるな」と記憶をたどっているうちに、「もしかしてこれが“むずむず脚症候群”なのかな?」と思い当たって調べてみると“どんぴしゃ”でした。当時は「むずむず脚症候群」という病名だけで、病態まではよく知らなかったのです。

神経疾患に合併するレストレスレッグス症候群
本に書いてあった治療法にそってAさんにお薬を処方すると、てきめんに脚のむずむずが消えて、夜中に歩き回ることもなくなりました。
「“むずむず脚症候群”なんて変な名前の病気があるもんですね、ははははは」と、相変わらず他人事のように笑うAさんでしたが、その後「眠気が強い」ということで他の薬剤に切り替え、さらにドパミン作動薬を少量追加して症状は安定しました。

この体験をしてから注意して観察してみると、脊髄小脳変性症に近い多系統萎縮症でも、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)の際に、周期性四肢運動(PLM)が多く検出されることが分かりました。PLMはレストレスレッグス症候群の約80%に合併するといわれ、診断の重要な手がかりとなるものです。

脊髄小脳変性症や多系統萎縮症では、中枢性の睡眠時無呼吸症候群(SAS)が多く認められ、患者さんに不眠症や日中の眠気といった症状が現われた場合、SASが原因とみなされる可能性があります。しかしAさんの例やPLMの頻度の高さを考えると、これらの神経疾患の中にレストレスレッグス症候群の患者さんが隠れているのかも知れないと思います。

その後Aさんは磁気刺激療法の効果が今ひとつということで、ご実家近くの病院に再転院されていきました。「現在はどうされているのかなぁ」と、今でも気になる患者さんの一人です。
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レストレスレッグス症候群とは
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