鳥取大学医学部附属病院 脳神経内科
国内有数の歴史をもち神経内科領域を網羅する診療科
鳥取大学医学部附属病院の脳神経内科は、神経内科単独の診療科としては日本でもっとも古く、50年近い歴史があります(1962年設置)。今回のインタビューでは、さまざまな神経疾患やそれらに合併する睡眠障害を診察されている野村哲志先生にお話を聞きました。
野村先生が診察されている主な病気について教えていただけますか。
鳥取大学病院の脳神経内科には11の専門外来があり、そのうち「変性疾患」、「睡眠障害」、「てんかん」の3つを私が担当していて、他に疾患を問わず新規の患者さんも診ています。それぞれの担当医師に専門外来が割り振られているのですが、実際には弾力的に対応していて、かなり特殊な病気でないかぎり初診を担当した医師がその患者さんを継続して診察しています。
|
専門外来が11もあるというのはとても充実していますね。その中でも睡眠障害やレストレスレッグス症候群を診察されるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
はい、10年位前、現:代々木睡眠クリニック院長の井上雄一先生がまだ鳥取大学病院にいらした時ですが、パーキンソン病と睡眠障害に関する共同研究を行う機会がありました。最初の役割分担では井上先生が睡眠障害を、私はパーキンソン病を担当する予定だったのですが、共同研究の途中で井上先生が転任されることになったのです。それで「一体、誰が睡眠のデータをまとめればよいのだろう…」と途方に暮れてたのですが、他に選択肢がないので結局私がやりました(笑)。
検査技師さんに助けてもらいながら自分で終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)のデータの取り方、解析の仕方などを勉強して、当時はけっこう大変だったのですが、これが睡眠障害に本格的に取り組むきっかけになりました。その後、代々木睡眠クリニックに研修に行き、やってきたことが間違いではないことを確認し自信となりました。井上先生との出会いがすべてだったと実感しています。
その後、パーキンソン病など神経疾患を診る時でも、睡眠を意識するようになったおかげで、睡眠障害の合併例に気付きやすくなりました。また、神経疾患に合併する“二次性の”睡眠障害を多く診てきたので、それに比べると、一次性の睡眠障害は難治例が少なく、標準的な薬物治療で症状が改善しやすい傾向があるなと実感しています。
|
現在診察されているレストレスレッグス症候群の患者さんは何人くらいいらっしゃいますか。。
定期的に通院して薬物治療を続けている方は10名くらいです。ご自宅に近い病院に紹介した患者さんや現在は薬を飲んでいない方を含めると、診察したのは20名くらいだと思います。
患者さんのお話を聞いてみると、やはり「夜に症状がひどくなるか」、「脚を動かすと楽になるか」という2つのポイントがはっきりしている人は、レストレスレッグス症候群の可能性がかなり高く、そこがはっきりしない場合はレストレスレッグス症候群ではないケースが多いですね。
今は薬を飲んでいない患者さんもいるというお話ですが、服薬を中止しても症状が治まっているということでしょうか。
はい、軽症の方だとしばらく治療薬(ビ・シフロール)を飲むと、そのあと服薬を中止しても症状が現われないケースがよくあります。患者さんには「症状が再発したらまた来てください」とお伝えしてありますが、今のところ、そうした受診例はありません。
一方で、レストレスレッグス症候群の症状があるのに薬を飲まないで済ませる患者さんもいてちょっと驚いています。
薬があるのに我慢してしまうというのは、具体的にはどういうことなのでしょうか。
患者さんの話をまとめてみると、「もう症状に慣れてしまったので、このままでもよい」ということのようです。
もう少し詳しく説明しますと、鳥取大学病院では米子市のお隣、大山町に毎月1回往診に出かけています。疫学調査としてレストレスレッグス症候群の有病率を調べるアンケートを実施して、病気の可能性が高い約50名の方に電話で聞き取りをしたのですが、結局、実際に受診にまで至ったのは3名だけでした。
他の方は「鳥取大学病院の先生から電話がかかって来た!?」ということで最初は熱心に受け答えをしてくれるのですが、「レストレスレッグス症候群という病気の疑いがあるので、病院に一度いらしていただけませんか」とお話しすると、聞いたことのない病気ですし、何かのキャッチセールスではないかと誤解されるみたいで、「私は別に困ってませんので」といって断られてしまうことがよくありました(笑)。
中には学校の先生から「脚がむずむずするのは病気のせいだったんですか…。そんな珍しい病気まで研究されているとは本当に頭が下がります」と、なぜか感謝されて当惑することもありましたが(笑)、受診については「分かりました。今は大丈夫ですが、将来ひどくなったら必ず受診いたします」とのお答えで、結局病院には来られませんでした。 |
受診されなかった方は、皆さん症状が軽かったのでしょうか。
それがそうでもないのです。ある患者さんは毎晩布団に入ってから脚がむずむずして眠れないので、うつぶせになってさんざん布団を蹴ってから気を紛らわせて寝るというお話でした。かなり重症の患者さんだと思うのですが、「大したことないですよ。毎日、寝る時の儀式みたいなものだから」ということで、こちらの方も受診されませんでした。
この方はかなり特殊なケースだと思うのですが、基本的には症状が軽めで夜間に睡眠が取れている方では、それほど強くは治療の必要性を感じないようです。反対に眠れない方では、やはり治療したいという切実な気持ちが大きいと思います。
先ほど神経疾患と睡眠障害の合併についてお話がありましたが、レストレスレッグス症候群が合併する神経疾患について教えていただけますか。
コラムでも触れたのですが、脊髄小脳変性症や多系統萎縮症の患者さんでレストレスレッグス症候群が合併している例が多くあります。またパーキンソン病に合併するケースも多いですね。
パーキンソン病の患者さんでは、脚の異常感覚は震えや筋肉の固縮と同様、パーキンソン病の症状の1つだと誤解されていることが多いです。ですからご自分から訴えることはあまりなくて、私のほうから「こんな症状はありませんか」と聞いてみると「ああ、それならあります」というお答えで、「それでは薬を出しましょうか」とたずねると「まだ身体の動きがよいので追加の薬はいりません」というかたちで話が落ち着くケースがよくあります。
身体の動きがよくないパーキンソン病患者さんではレストレスレッグス症候群の治療を希望される方が多く、お薬を処方すると運動症状に比べて脚の異常感覚のほうがスムーズに改善するようです。
レストレスレッグス症候群の診断がされても、患者さんの状態や希望によって、薬物治療を行うかどうか、だいぶ対応が変わってくるのですね。
こうした患者さんの他に、まだ診断がついていない方も多いと思うのですが、この点についてはどのようにお考えですか。
整形外科では腰の問題で起こる症状とレストレスレッグス症候群とが見分けにくいケースがあり、そこで見逃されている患者さんがいるかもしれませんね。
また、「以前、皮膚科を受診して塗り薬をもらったが何も変わらなかった」というレストレスレッグス症候群の患者さんがいましたが、脚の表面に症状があるのか、奥のほうなのかを聴き取れれば鑑別の助けになるのではないかと思います。
ペインクリニックで治療中の患者さんで、お話を聞くかぎり多分レストレスレッグス症候群だったと思われる方がいたのですが、神経ブロック治療を受けているので現在では本当にそうだったかどうかは確認ができません。本当にレストレスレッグス症候群だったとすれば、ペインクリニックを訪れたくらいですからかなり重症だったと思うのですが、それでも見逃されてしまったということですね。
|
やはりまだレストレスレッグス症候群の認知度が低いのでしょうか。
そうですね。地域によって認知度の違いはあるかもしれませんが、今後もっと病気のことを知ってもらう努力が必要ではないかと思います。
もう1つ、これから取り組みたい課題として、海外と国内でレストレスレッグス症候群の重症度に違いがあるかを調べてみたいと考えています。海外の病院を見学した時、診察中にじっとしていられなくて脚をもぞもぞ動かしたり、「ちょっとすいません」といって部屋の中を歩き始めたりする患者さんがいたのですが、日本ではこれほど重症の方はみたことがありませんでした。
日本ではレストレスレッグス症候群の認知度が低いために重症の患者さんが見逃されているのか、あるいは本当に重症の患者さんがそれほど多くないのか、この点を調べてみたいと思っています。
BACK